スペシャル

風鳥香織編

今日の三時限目は、家庭科実習です。

 

「風鳥、一緒の班だな」

「そうですね、瑠璃さまぁ」

 

肩を思いきり触れさせるように、スリ寄ります。

けど、瑠璃さまはイヤそうな顔を全然見せない優しい方です。

 

それどころか、いつもどおりの凛々しいその表情……。はぁ、ステキですぅ。

 

「頑張って、一緒に作りましょぉ」

「うむ、私も風鳥が力を貸してくれるなら心強い」

「今日は一体なにを作るんでしょうねぇ」

「ん。ちょうど書かれているようだぞ」

 

視線を、家庭科室正面に向けます。

先生の手に持つチョークが、黒板の上を動いている所でした。

そこに大きく記された、料理の課題の名は——

 

 

『スパゲッティ』

 

 

「スパゲッティって、ゆでるだけじゃありませんかぁ」

 

不満で声をあげてしまいます。

だって、そんな単純な料理じゃ、瑠璃さまに自慢の腕が振るえないじゃないですか。

 

「……ん。いや、風鳥」

「はい?」

「すぱげってぃも、味つけの仕方で随分と違うらしいぞ」

「…………」

 

私はしばらく目をパチクリさせると、

 

「素晴らしいお言葉ですぅ。さすが瑠璃さまぁ」

「ただの、七夏殿の受け売りだ」

 

謙遜する奥ゆかしさ……、やっぱり瑠璃さまは最高ですぅ。

 

味つけは、同じ班でもそれぞれ別にするという話になりました。

 

「瑠璃さまと一緒に作れないのは残念ですけどぉ」

「だが、班員同士で料理を振る舞いあえるのはいいな」

「それもそうですねぇ。私のスパゲッティは当然、瑠璃さまに進呈いたしますぅ」

「うん。そういえば、風鳥」

「はぁい?」

「この間、私の手料理を馳走しようという話をしたよな」

「あ、はい。覚えてますよぉ」

「では、今回はそれの予行演習としよう」

「わぁ。嬉しいです、瑠璃さまぁ」

 

そして、味つけに必要な調味料や香辛料を取りそろえます。

瑠璃さまの前を見てみると、

 

「トウガラシですねぇ。ペペロンチーノですかぁ?」

「ふむ。そういう名前は知らんが、私なりの味つけをさせてもらうつもりだ」

「うふふぅ。楽しみですぅ」

 

トウガラシの量が多い気はしましたけど、きっと予備の分でしょう。

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