マリーベルは死んだとパパに伝えて

企画・シナリオ早狩武志 / キャラクターデザイン・原画・彩色 KeG

STORY

「バカな……嘘だろ」
それは突然の出来事だった。
ある日、着の身着のまま、見知らぬ異世界に放りこまれる。
一生のうちにたった一度でも、そんな体験をした人間はおそらくごく僅かだろう。
そして、結果訪れた世界では、人型をした怪物(モンスター)が我が物顔で山野を跳梁し、
中世のような城壁都市では魔法使いが手もふれずに病を癒す、となれば、心身ともに衝撃を感じるのはあたりまえだ。
正直、それは中学生が作文に描く安易な物語的世界のようで、語る自分でさえ気恥ずかしさを覚える。
僕、草薙悠也はそれまで、れっきとした理系の学生であるだけでなく、自他共に認める重度のサイエンスフリークだった。
だからもし他人からそんな話を聞かされたら、大笑いしつつ内心でそいつを愚かな妄想家と軽蔑したに違いない。
けれどそんな異常現象がいざわが身に降りかかってみると、これは一種異様なインパクトがある。
そして、僕はそういった、常識から外れた出来事には激しく動揺するタイプだった。
なまじ科学を信奉しているぶん、とにかく理屈ぬきにダメなのだ。弱いのだ。

だから、
こうしていまになってみれば理解できる。翠や子供たちの存在に、あの頃の僕は間違いなく救われていたのだと。
予告もなしに、この世界へと落ちてきたその日から、僕は翠と二人、
幼い子供たちをかかえ、ただひたすらに必死だった。

「あり得ない……けど、認めるしかない、か」
わたし、片瀬翠は本来ならば、この春ようやく教養課程を終えたばかりの、平凡な一女子大生にすぎない筈だった。
あたりまえのように、ちょっとだけ格好いい先輩に恋をして……そして振られて。
しかし、運命のいたずらの結果、わたしはなんの因果か、他の五人と一緒に、
この異世界に――この世界の表現でいうならば、落下(フォール)して――きてしまった。

それから、短い期間に幾つかの出来事があって、話し合いをくり返して。
わたしと悠也は、共同で、子供たちの面倒をみようと決めた。
哀れで惨めな失恋をしたばかりのわたしにとって、その後すぐにこの子たちと異世界に落とされたのが、
幸運だったのか不運だったのかはまだよくわからない。
けれど、この突拍子もない現実に、やわな失恋気分などどこかへ吹き飛んでしまった事だけは確かだ。
怪物に殺されかけ、空腹と寒さで震えている最中に、色恋沙汰など頭の片隅にも浮かばなかった。
自分でも浅ましいと思うけれど、そういう時に、死にたくないとか、お腹すいたなどとしか浮かばない、典型的な俗物なのだわたしは。
他に考えられることといえば数学……自分の好きな理系の知識による、我が身に起こった現象についての空想じみた推測くらいだ。
だからこの子たちを抱えて、私たちがこれから先、この世界でうまくやっていけるかどうかは無論、わからない。
さらに、運命がこれ以上わたしをもてあそぼうというのなら、
わたしは、ええいいわよ、煮るなり焼くなりもうどうとでも好きにしなさいよ、とでも言い放ちたい気分だった。

そんなふうに、ぼくとわたしと、子供たちは出会い……
……異世界での、『生活』がはじまった。

CHARACTER

  • 草薙悠也
  • 片瀬翠
  • 橘由希子
  • 後藤田隆明
  • 小此木美香
  • 利根冬樹

WORLD

  • サジェール大陸
  • ティレンダイン
  • 落下者(フォーラー)
  • 怪物(モンスター)
  • 狩人(ハンター)