お菓子の家ってあるよね?
それはみんなが知ってる童話。
ヘンゼルとグレーテルが道に迷った末、辿り着いた魔女の家。
二人はちょうどおなかをすかせていて。
ついついその家を食べてしまい、魔女の怒りを買うことに。
そんなお菓子の家に、一度くらい、子供の頃に憧れたことはないだろうか。
あたし熊沢美希も、そんな女の子のひとりだった。
「という訳で、作ってみました〜♪」
『おーっ』
AGバトル管理委員会、西学本部室。
あたしはお手製のお菓子の家を披露していた。
もちろん、そんなに大きくはない。
一辺30cmの立方体ぐらいの大きさ、ミニチュアのお菓子の家。
「凄いですよ熊沢さんっ。メルヘンですっ」
反応が一番大きいのは、加納リンゴちゃん。
彼女も、お菓子の家に憧れを持っていたんだろう。
子供のころにも作ろうとした事がある。
けど、意外にこれが難しかったりする。
キャンディー、クッキー、チョコレート、砂糖菓子、etc...
材料を選び出し用意して、それらの組み合わせでちゃんと家の形になるよう設計。
どうしても必要だったら、クッキーやチョコは自作もしたりして。
ただ組み立てるだけじゃ崩れちゃうから、水アメなどを接着剤代わりに使う。
子供にはちょっと難しい作業だ。
かと言ってこの歳で実行するのも、ちょっと気恥ずかしいし。
でもこうして実現すると、なんとも言えない満足感があった。
やっぱり、夢は叶えるためにあるものなんだね。
「こんなに可愛く仕上げるなんて、熊沢さん凄いですーっ」
「あはは。うん、そう言われると頑張った甲斐があるな」
可愛くなるようには気をつかった。
でないと、お菓子の家の意味がないし。
「それにこのウェハースとか、結構高級品ですかっ?」
「うん。手は抜きたくなかったから、素材の質も厳選してるよ」
「さすが熊沢さん、ブルジョワジーっ!」
「あはは。お小遣いから費用捻出するのは、結構苦労したんだよ〜?」
「そなんですかー。でも可愛い上にこんなに美味しいなんて最高ですねーっ」
「そう? ふふっ」
なんのかんので、褒められて悪い気はしない。
……て、え? 美味しい?
「あぁ〜っ!? なんでいきなり食べてるの、リンゴちゃんっ!?」
「へ? いけませんでした?」
満足感に浸っていたせいで、気づかなかった。
しかも彼女に釣られて、周りのみんなも手を出していて。
おかげで、可愛かったお菓子の家は……、
今や、見るも無残な半壊状態。
「だってお菓子ですからそんなに長くとってたらイタんだり……」
「そうだけどっ! 素材は全部、少しは日持ちするのを選んでたしっ!」
「むむ。言われてみれば」
「ケースに入れて一日か二日ぐらい飾っておきたかったのっ!」
「あ、あう。すいません」
「まだ写真も撮ってなかったのに〜っ!」
ヘンゼルとグレーテルに、家を食べられてしまった魔女。
あたしは今初めて、彼女の気持ちを本当の意味で理解した。
これは確かに、笑って許せる事じゃない。
「リンゴちゃん、覚悟はいい……?」
「あわわっ! 熊沢さんの目が怖いですっ!?」
そうっ! あたし熊沢美希は、今こそ穏やかな淑女の仮面を脱ぎ、復讐の魔女となるっ!