これは、まだ才華ちゃんが小さかった頃の話。
「どうして、あの人はおマンジュウがこわかったんでしょうか? おかーさま」
そんな事を聞いてきました。
お茶の時間、マンジュウを食べてながらです。
「おマンジュウはこんなにおいしいのに、フシギです」
「……ああ。お昼に見た『マンジュウ怖い』の落語?」
「はい。見たときからフシギだったんですけど」
「……才華ちゃんには、まだ難しかったかしら」
「うう……、分からないのはクヤしいです」
「……そういう向上心は、いい事よ」
「そうですか? でも……」
「……そうね、今回はお母さんがヒントをあげるわ」
「は、はいっ。お願いしますっ」
才華ちゃんは素直で元気で、我が子ながら可愛いですわ。
ふふっ。こういうのも親バカというんでしょうか。
紙と鉛筆を用意し、書いてみせながら、
「……マンジュウはね、漢字だと『饅頭』と書くの」
「むずかしい……。でも、『頭』はわかりますわ」
「……素晴らしいわ、才華ちゃん。そこが重要なの」
「そ、そうですか?」
褒められて照れている才華ちゃん。
ふふっ、可愛い。
「……昔のある国ではね、川が荒れた時にイケニエを捧げていたの」
「い、イケニエですか?」
「……そう。百人の首を落として、川に放り込むの」
「え、え?」
「……そうすると神様が喜んで、川を静かにしてくれると思っていたのね」
「で、でもそれで百人もって、ヒドすぎませんっ?」
幼さゆえの純粋な正義感を表す才華ちゃん。
ふふふっ、可愛い。
「……当時のその国にも、才華ちゃんと同じ事を考えた人がいたの」
「そうなんですか?」
「……その人はマンジュウを発明して、人の頭の代わりにイケニエにする事を考えたわ」
「そ、それでどうなったんですかっ?」
「……見事に川は静かになって、それ以来、人がイケニエにされる事はなくなったそうよ」
「よかった。いい話ですわ」
感動している才華ちゃん。
ふふふふっ、可愛い。
「……でもね。マンジュウを食べてしまうと、イケニエが足りなくなるでしょう?」
「え?」
「……足りなくなるわよね?」
「え、あ……、はい」
「……だから、食べてしまった人の頭をイケニエにして、数をそろえないといけなくなるの」
「え、え?」
「……マンジュウを食べた人が、その夜寝ていると——」
「ちょん♪」
「——と、首を切られてしまうのよ」
「あ、あの……?」
食べかけのマンジュウを手に小刻みに震えている才華ちゃん。
ふふふふふっ、可愛い。
「ど、どうすれば首を切られずにすみますのっ?」
「……そこで、『熱いお茶』という呪文が出てくるの」
「『あついおちゃ』?」
「……熱いお茶と、マンジュウは良く合うわよね?」
「は、はい」
「……それで、『熱いお茶』と考えていると、悪いマンジュウの霊を呼び寄せてしまうの」
「わるいマンジュウのれい……」
「……首を切るのは、その悪いマンジュウの霊なのね」
「首……」
「……だから、寝る前に『熱いお茶』と考えなければ、大丈夫よ」
「か、考えては、いけませんのね?」
「……そう。考えては、ダメなのよ」
「わ、わかりましたわ。考えません……」
顔面が蒼白になっている才華ちゃん。
ふふふふふふっ、可愛い。
「……それで、話を落語に戻すけど」
「は、はいっ」
「……今言った話は、男が怖がった理由とは全然違うのよ」
「え……」
「……ヒントになったかしら?」
「…………」