当然、ゆうの言った案で効果があるなら苦労はなく。
一週間ほど経ったある日の昼休み、
『東栄峰学園特別企画っ!』
『「そんなに廊下を走りたけりゃ好きなだけ走りやがれこんちくしょう大会」ーっ!』
リンゴちゃんの元気な声が、スピーカーに乗って学園全体に響き渡った。
『どんなに廊下を走るなと注意しても直らない学園生に七夏さんがついにキレましたっ!』
『学園生が七夏さんを捕まえたら勝ちという鬼ごっこである今回のこの企画っ!』
『勝者は生徒会長権限で可能な願いならなんでも叶えてもらえるそうでーすっ!』
『ただし捕まえられなかったら今後一切廊下は走るなという七夏さんからのお達しですがっ!』
『さて全学園生を敵に回して七夏さんは制限時間まで逃げ切れるのかーっ!?』
なんて話になっていた。
屈伸、屈伸っと。
とにかく、準備運動は大切よね。
立ったまま柔軟体操をしていると、ゆうが近づいてきた。
「大丈夫なの? 七夏ちゃん」
「ん、心配してくれてるの?」
「まあ、そりゃ……」
「大丈夫だって。今回はちょっと本気を出すつもりだし」
「あ、なら大丈夫だね」
さすが、幼馴染みは話が早くて助かる。
「じゃ、もう離れてた方がいいわよ」
「うん。頑張ってね」
そしてゆうが立ち去り、しばらくして、
『それでは——大会スタートでーすっ!』
リンゴちゃんの宣言が朗々と響く。
途端、遠くから地響きの音を立てて校舎全体が揺れた。
東栄峰学園、総学園生数600名。
そのかなりの割合が、大会に参加している。
部活動の部費確保とか、みんな意外に願い事はあるらしい。
さ〜て、さすがに何百人を相手に簡単には逃げきれないかしら。
「会長はどこだーっ!?」
「あっちだ、あっちにいるぞーっ!」
廊下の東側と西側から、学園生が大挙として押しかけてきている。
守宮七夏、いきなり大ピンチって感じ?
先頭を走っている男子学園生が、手を伸ばして迫ってくる。
「とったぁっ!」
その指先があと少しで届くという所で、
「甘いっ」
あたしは紙一重で、身体を横にそらして回避。
そのまま、ドアを開けていた教室に飛び込む。
「なっ!?」
回避された学園生が、驚きの声をあげた瞬間、
ドガシャーンッ!
と、コミカルな音を立てて、左右から迫っていた学園生たちは正面衝突した。
さらに後ろから押し寄せる人波に、先頭集団は押され、
「お、押すなああっ!」
「ぐはああっ、押しつぶされ……っ!」
中心に、左右から押しつぶされたような人の山ができる。
お〜、これはちょっとした惨事だわ。
「先頭の子、大丈夫〜?」
「うう……、み、みな俺の屍を越えて、生徒会長を……」
どうやら大丈夫らしい。
うんうん。
やっぱり東学の皆の、こういう元気でタフなところは好きだわ〜。
なんて事を考えている間に。
無事だった学園生たちが、教室に入ってくる。
瞬く間に、あたしは窓際まで追い詰められてしまう。
「会長、お覚悟っ! 俺には、屍となった友の魂がついているっ!」
「いや勝手に殺さない」
あたしのツッコミに返事はなく、一気に飛びかかってくる東学生たち。
守宮七夏、再びの大ピンチっ!
「——なんつって♪」
あたしは身体を躍らせ、背中側で開いていた窓から飛び出る。
窓の下の出っ張り部分に手をかけ、そこを軸に身体を戻し、下の窓から校舎内に戻る。
要するに、三階の窓から出て、二階の窓から入ったって事。
両方の窓が開いていたのは、もちろんあらかじめの準備のおかげ。
用意周到さは、大事よね〜。
「おおおっ!?」
ドガゴショーンッ!
三階、窓にまで殺到していた集団がそこで衝突した激しい音がした。
「あ〜、音を聞いただけで痛そうだわ」
まあとりあえず、いったん引き離したっと。
さてさて、この調子で制限時間まで逃げ切れるかしらね〜?