ある晴れた日の下校中、
「瑠璃さまぁ」
隣の風鳥が、身体をスリ寄せてきた。
風鳥は、良くこうして身体を触れさせてくる。
親愛の情の表現なのだろう。
初めは気恥ずかしかったが、今はもう慣れている。
「なんだ、風鳥?」
「瑠璃さまが一番好きな動物って、なんですかぁ?」
「ん、唐突だな」
答えるより先に首を傾げると、
「占いのために、必要なんですよぉ」
「……占い?」
「はい、瑠璃さまと私の相性を調べたいんですぅ」
「だが、占いとは普通、血液型や星座でするものではなかったか?」
興味のない私だが、さすがにその程度は知っている。
「それは、もうやってるんですけど、結果がおかしいんですよぉ」
「おかしい?」
「だって、私と瑠璃さまの相性が最悪とか出るんですよぉ」
「なるほど。確かにそれはおかしいな」
「瑠璃さまも、そう思っていただけますかぁ?」
「もちろんだ」
私と風鳥は、友人としてよくやっていけていると思う。
「だから、そんな占いは占いの方が間違ってるんですよぉ」
「うむ、風鳥の言い分は良く分かるぞ」
「必ず結ばれる、て結果でないとウソですよねぇ」
「ん?」
後の方の言葉は、良く聞き取れなかった。
「その点、今回の占いは最新式で、信憑性が高いんですよぉ」
「ほう」
「占いっていうより、心理学的なものだそうですけどぉ」
「そうなのか?」
「好きな動物で、各人の嗜好やタイプを分析するんだとかぁ」
「科学的なのだな」
良く分からない所もあったが、あいづちを打っておく。
「ですから、瑠璃さまの好きな動物を教えてくださぁい」
「むう。しかし突然そう言われても……」
「出てきませんかぁ?」
「そういうのは考えた事もないからな」
「子供の頃に持ってたヌイグルミの動物、とかでもいいですよぉ」
「む、それならないではないか」
頷いた。
「子供の瑠璃さまは、どんなヌイグルミで遊んでたんですかぁ?」
ん、少しカン違いされているようだ。
これは、話をするのは恥ずかしい気がしてきた。
「いや、子供の頃の話ではなく、今も部屋にあるのだが」
「え、そうなんですかぁ?」
「うむ……、今でも帰宅した直後と夜寝る前に相手している」
「わぁ、瑠璃さまにそんな一面があったなんてぇ」
「や、やはりヘンかな」
羞恥に顔を赤らめると、
「いえいえ。私、ますます瑠璃さまの事が好きになりましたよぉ」
「そ、そうか。良かった」
優しい言葉をかけられ、救われる。
「で、それはどんな動物でぇ?」
「ああ、クマだ」
「クマさんのヌイグルミですかぁ」
「そんなものだ」
「ええと、クマ、クマ……」
占いの本が、風鳥の手の中でパラパラとめくられる。
「うぅ〜ん、いまいちですねぇ」
「あまり気にするな、風鳥」
「でもぉ」
「占いの結果に左右されるほど、私と風鳥は浅い仲ではないだろう」
「……ああ、はい。瑠璃さまにそう言っていただけるならぁ」
風鳥は声を弾ませた、
「今回は、瑠璃さまの意外な一面が知れただけでよしとしますぅ」
「あ、あまりからかうな」
そうして、その後も並んで下校していると、
「あ。でもクマって言えばぁ」
「どうした?」
「瑠璃さま、学園の裏山でクマさんと戦ったとかのウワサが流れてますよぉ」
「なに?」
「そして、一撃でそのクマさんを蹴り倒したとかぁ」
私は目を丸くした。
「そんなウワサが流れているのか?」
「はぁい」
「むう……、だが、そのウワサは間違いだぞ」
「そうですよねぇ」
風鳥は、ほっと安心したように息をついた。